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CFA協会ブログ

No. 578

                                                                                                                                                                                             2022年6月9日

次の75年間:ジェネラリストとスペシャリスト、どちらが必要とされるか?

The Next 75 Years: Will Generalists or Specialists Prevail?

ラリー・チャオ(Larry Cao)、CFA

 

ジェネラリストかスペシャリストか?

4つの金融アナリスト協会が合同で現在CFA協会として知られている連合体を設立した1947年6月11日当時の視点でみると、この問いに対する答えは現在の投資専門家とは異なるものになるでしょう。

当時の金融業界はニューヨークとロンドンに集中しており、2022年のグローバルに広がるセクターとは言い難いものでした。フランクフルト、香港特別行政区、ムンバイ、上海、シンガポール、東京、トロントなどの都市が現在のような世界的な投資拠点になるにはまだ先のことです。

もちろん、当時と現在の金融の違いは地理的なものだけではありません。資産価値モデル(CAPM)、プライベート・エクイティ、インデックス・ファンド、オンライン・トレードなど、我々が当たり前のように使っている金融理論、資産クラス、商品、技術は、1947年にはまだ何年も先か、少なくとも初期段階でした。つまり、スペシャリストも選択肢の一つでしたが、ジェネラリストが時代の要請でした。

しかし、現在はどうでしょうか。CFA 協会が設立されて75年、投資のプロや投資家を目指す人たちは、どのようにその選択に臨むべきでしょうか。

スペシャリストが必要な理由

アダム・スミスは『国富論』の中で、専門化の効用を述べています。彼は「労働の生産力の最大の改善と、技能、器用さ、判断力の大部分」を「分業の効果」に起因するものと考えています。労働経済学者もこの評価には概ね同意しています。専門化が進むのは、それが私たち全員の利益になるからです。

現代の投資業界は、このプロセスがいかに業界を変貌させるかを証明しています。1950年代にウォーレン・バフェットが投資会社を設立したとき、彼は限られた投資対象を扱う一人チームでした。これは、CFA 協会の創設者やその時代の投資家に共通する経験でした。1970年代に投資ビジネスが制度化され、様々なタイプのミューチュアル・ファンドやインベストメント・トラストが台頭したことで、より正式に専門化の時代が始まりました。

今日、グローバルなマルチアセットマネージャーは、世界中の数十の国や市場の十数種類の資産クラス、数千とは言わないまでも数百の(投資先)投資商品に投資することがあります。専門化は、オプションというよりもむしろ必然となっています。

プロ投資家の専門性の度合いを連続した尺度で測るとすると、1940年代と1950年代の投資家はゼロかそれに近いレベルでほとんどがジェネラリストであり、投資はサイエンスというよりアートだったと言えます。それ以来数十年にわたり、投資という職業が進化するにつれて、投資家が必要とするスキルも進化してきました。

現代の金融業界では、ほとんどの職種が何らかの形で専門性を持っています。投資のプロは、資産クラス、産業、地域などの専門知識を持ち、また、例えば、欧州REITのアナリストとアジア新興市場の債券ポートフォリオマネージャーを区別するような、役割に応じた知識を持つことが前提となっています。

スミスの分業理論が予言したように、金融業界における最適なスキルミックスは、ゼロ専門性から右肩上がりになってきました。この変化を促したのは、投資業界における4つの要因にあります。

1. 国際化

ここ数十年、大手アセットオーナー、ファイナンシャルアドバイザー、リテールブローカーは、彼らのモデルポートフォリオの国際配分を増やしてきました。1980 年代後半、デニス・スタットマン(Dennis Stattman(CFA))が Merrill Global Asset Allocationのポートフォリオに40%の国際配分を提案し、それは革命的なアイデアでした。現在、米国の投資家だけでなく、海外の投資家も自国の市場規模が限定的であるため、このような海外株式・債券への配分ははるかに一般的になっています。

新しい市場には、より特色のある知識が必要とされます。例えば、オンショア人民元建て債券市場へのアクセスには、政策志向であれ、産業や企業のファンダメンタルズであれ、現地の市場の慣例や力学に関する専門知識が必要です。また、その知識をグローバルな投資家に伝える能力も必要です。そのような人材は、なかなか見つからないものです。

2. 新しいアセットクラスと商品

オルタナティブは、過去75年間に登場した最も重要な「新しい」アセットクラスであると考えられます。イェール大学の長年の最高投資責任者であったデイビッド・スウェンセン(David Swensen)が開拓したエンダウメント・モデルが、オルタナティブの市場拡大の鍵をにぎっていました。彼のアプローチには、プライベート・エクイティ、不動産、絶対収益戦略など、流動性の低い資産への大幅な配分が含まれていました。

 

このような資産にアクセスするためには、投資チームは専門的な知識を必要とします。例えば、プライベート・エクイティ投資家は、ディール・ストラクチャーやタームシート、投資対象の業界や企業について理解する必要があります。

 

このような新商品の急増は、さらに専門化を促進します。上場投資信託(ETF)のような革新的な商品は、投資家に優しく、ファンドの管理手数料を引き下げ、投資家の流動性を向上させるものです。また、CDO(Collateralized Debt Obligation:債務担保証券)のように、構想が悪かったり、使い方が間違っていたりするものもあります。しかし、その長所や短所が何であれ、使いこなすにはゼネラリストの知識以上のものが必要です。

3. 業界の集中化

資産運用部門は長年にわたり統合されてきました。その傾向はなくなりません。ウィリス・タワーズワトソンの2021年版レポートによると、大手20社の資産運用会社が業界の運用資産(AUM)の44%を支配していますが、1995年にはわずか29%でした。企業が成長するにつれ、その商品ラインも拡大することが多い傾向があります。そのためには、より個性的で新しい人材が必要となります。また、企業規模が大きくなればなるほど、専門家集団を支えるためのリソース捻出が容易になります。

 

ファンド業界の市場における成熟度や全体的な運用資産額は、その集中度合いと相関しています。米国のファンド業界は欧州よりも集中度が高く、欧州はアジア太平洋地域よりも集中度が高いのです。

4. クオンツ投資

1980年代、クオンツ(Quantitative)は一気に投資の専門家の仲間入りを果たしました。彼らは、デリバティブの価格決定、リスクの測定と予測、さらには投資収益の予測に、極めて高い数学的厳密さを適用しています。

ブラック・ショールズ・モデルは、クオンツ革命の先駆けでした。フィッシャー・ブラックと一緒にモデルを開発したマイロン・ショールズによれば、クオンツ投資は、当時のビジネス専攻の学生よりもはるかに専門的な数学、科学、統計学の訓練を必要とするといいます。しかし、どんなに深いスキルがあっても、クオンツ投資は間違いのない学問とは言えません。

 

全体として、投資チームが考慮しなければならない要素が多ければ多いほど、現在も将来も、際立った専門性を持ったメンバーが必要になります。

ジェネラリストが必要な理由

専門性の高さは魅力ですが、投資チームのプロフェッショナルは、チームメンバーや他のステークホルダーと協力しながら、個人としても集団としても効果的に活動する必要があります。投資業界にはまだ多くのジェネラリストが存在し、彼らはしばしば投資プロセスにとって不可欠な存在です。

 

ジェネラリストは、幅広いスキルの細分化を図ることができないブティック・ショップを支配しています。バフェットは巨大な投資帝国を築いたかもしれませんが、多くの小規模な投資マネージャーはまだ単独経営です。今日の独立系運用会社を経営するコストを考えると、その数はさらに減少する可能性がありますが、一部は生き残り、その投資家層に特異な価値を提供し続けるでしょう。

もちろん、生き残るのは "専門性のないゼネラリスト"ではありません。ブティックファームは、その価値提案を定義する何らかの方法でユニークである傾向があります。

極端な話、チーム内のスペシャリストが連携できなければ、ジェネラリストが介入せざるを得ません。金融機関の人工知能(AI)およびビッグデータ導入プロジェクトに関する当社の現地調査では、ジェネラリストが、まったく異なる学歴を持つ投資やデータサイエンスの専門家の取り組みを調整し、リードすることが多いことが明らかになっています。彼らのコラボレーションを促進することは、非常に大きな課題です。投資とデータサイエンスのスキルを持つジェネラリストは、双方にまたがることができるため、特別な価値を持ちます。この文脈ではジェネラリストに分類されるとしても、彼らは非常に「特別」な存在なのです。

 

もちろん、投資やデータサイエンスのスペシャリストも重要な役割を担っています。彼らは仕事を成し遂げる人たちです。ジェネラリストは、その仕事を促進し、専門分野間のギャップを埋めます。したがって、AIとデータサイエンスの採用プロセスには、両方の役割が不可欠なのです。

要点

今日の投資運用業界におけるさまざまな専門化の形態は、ジェネラリストとスペシャリストのどちらが最も必要とされるかについて、無数の影響を及ぼしています。投資チームの中で定められた役割に最適なスキルセットを獲得するために、投資専門家は自分のチームが現在どのような専門性を持っているか、そして将来どのような専門性を持つようになるかを理解する必要があります。

 

学術研究者もこの評価にほぼ同意しています。例えば、フロレンタ・テオドリディス(Florenta Teodoridis)、マイケル・ビカード(Michael Bikard)、ケイヴァン・ヴァキリ(Keyvan Vakili) は Harvard Business Review に「・・・ジェネラリストは変化のペースが速すぎない限り、比較的成功するようだが、変化のペースが速まると生産性が低下する。一方、スペシャリストは変化のペースが加速するとパフォーマンスが向上するようだ」と書いています。

しかし、私たちは発展段階をより重視しています。新興の分野では、ジェネラリストの方が求められています。今日の投資におけるAIやビッグデータの導入に関しても同じことが言えます。しかし、時間の経過とともに高度化し、変化のスピードが増すにつれて、スペシャリストの需要も高まります。

 

そしてそれは、今現場で働いている私たちだけでなく、未来の世代の投資の専門家も肝に銘じておくべきことなのです。CFA Instituteが設立されて以来、加速度的に変化してきたのが投資業界のストーリーです。そして、それは次の75年間も同じでしょう。

上記は、近日中に発行予定のCFA Institute Report "The Future of Skills and Learning"から引用したものです。

 

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執筆者

Larry Cao, CFA

(翻訳者:井上 佐知子)

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2022/06/09/the-next-75-years-will-generalists-or-specialists-prevail/

 

注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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