599

CFA協会ブログ

No. 599

2022年11月17日 

錬金術師のパラドックス、中央銀行の主権、そして仮想通貨の運命

The Alchemist's Paradox, Central Bank Sovereignty, and the Fate of Crypto

マーク・J・ヒギンズ(Mark J. Higgins), CFA, CFP

 

この巨大な狂気に内在する想像力には驚嘆せずにいられない。狂気があるとするなら、その大きさはとてつもない規模と言えるかもしれない。―― ジョン・ケネス・ガルブレイス

 

サム・バンクマン‐フリード(Sam Bankman-Fried) 氏の推定純資産が 160 億ドルからほぼ 0 に急落し、暗号資産交換業者FTXは2022年11月11日に破産申請しました。私はこれまで一貫して仮想通貨には懐疑的でしたが、技術的な基盤を理解しておらず、有益な事例もいろいろあるものの、それを完全には把握していなかったので、自らの意見は差し控えていました。そのため、すでに明らになっていたことを軽視していたのです。すなわち、仮想通貨の流行には投機的なバブルの兆候がすべてあり、仮想通貨が主要通貨に取って代わる、つまり、「デジタルゴールド」として機能するのに必要な重要な要件がまったく満たされていなかったということです。

暗号通貨を生み出した技術革新の価値が何であれ、そこには解決できない大きな問題が2つあります。そのため、法定通貨に取って代わるのか、あるいは通貨の価値が固定された汎用商品として使用されるには大きな疑問が残るのです。

 

問題 1: 錬金術師のパラドックス

仮想通貨の価値を見る上で鍵となるのは、1つは、供給制約の概念です。暗号通貨は、表面上は紙幣のように無限に鋳造することはできないという考えです。つまり、恣意的な供給増加を妨げ、暗号通貨の希少価値を維持するプログラム上の制約によって、暗号通貨の価値は制御できると考えられています。理論的には素晴らしいものに聞こえますが、この考え方が成り立つのは、単一の暗号通貨に対してだけです。暗号技術は非常に簡単に複製できるため、起業家が新しい暗号通貨を立ち上げるのを防ぐ術はありません。その証拠に、現在約 12,000 種類の暗号通貨がサイバー空間に出回っているのです。

これは、古代の錬金術師が、より少ない元素から金を作り出す方法を発見したときに直面した問題と同じです。錬金術の秘密が明らかになると――そして、そのことが明らかになると――金は希少価値を失い、信頼できる価値の保存手段として機能しなくなります。同じルールが暗号通貨にも当てはまります。ビットコインを生み出した技術は斬新でしたが、その後、他の暗号通貨がそれを模倣しました。このような供給制約の明らかな欠陥により、暗号通貨は価値の保存手段としては、総じて不十分なものになります。

問題 2: 中央銀行の主権

仮想通貨を広く採用するための2つ目のハードルは中央銀行です。中央銀行は仮想通貨を実行可能な準備金として受け入れなければなりません。そのためには、第一に、中央銀行のほとんどが現在採用している法定通貨システムを放棄し、自国通貨を他の商品にペッグし直す必要があります。世の中の期待とは裏腹に、主要国で、正当な理由をもって、これを自ら進んで行う中央銀行はありません。そんなことをすれば、金融危機へ対応する際にマネーサプライを調整する能力が大幅に低下してしまいます。 1930 年代の大恐慌を長引かせ、1800 年代から 1900 年代初頭にかけてパニックと恐慌を繰り返し引き起こしたのは、まさに金本位制下での同様の制約でした。中央銀行が自らこの構造的な弱点を再び金融システムに導入することはないでしょう。

第二に、中央銀行が法定通貨を廃止したとしても、金や銀などではなく、暗号通貨を自国通貨とリンクさせるのに最適な商品であるとする判断が必要です。主要国の中央銀行が、供給量を制御できないものを通貨として積極的に活用するのは、いったいどのようなシナリオなのでしょうか?少なくとも金に関しては、厳しい自然界からの制約によって供給が制限されています。主要な主権国家が通貨供給に対する支配権を最後に放棄したのは、18 世紀初頭のフランスであり、ルイ 15 世の摂政が通貨供給、徴税システム、およびミシシッピ会社の株式の支配権をジョン・ロー(John Law)に明け渡したときかと思います。その後のミシシッピ・バブルは、フランス経済を壊滅させ、その後も大きな影響を及ぼしました。ルイ 15 世は莫大な富を失い、その後継者であるルイ 16 世は命を落としました。中央銀行が、このようなことを、敢えて繰り返すとは思えません。

 

闇の金融への降格

中央銀行が受け入れなければ、仮想通貨は永久に金融市場の異端児として追放されることになります。ブラックマーケット、破綻国家、FTX のような企業が運営する 24 時間営業のカジノは、限定的なユースケースに着地するかもしれません。しかし、そうしたユースケースが現実的であったとしても、私たちが現在推測できるのは、投機的な行動ではなく通常の仮想通貨の売買が行える潜在的な市場規模の大きさや、現実に使用される媒体としての仮想通貨の種類や数だけです。さらに悪いことには、このゲームに参加するプレーヤーは適切に規制された金融システムに保護されないため、取り付け、銀行強盗、詐欺のリスクを受け入れる必要があります。

この闇の市場で財を成した人たちに、私が悪意を持っている訳ではありません。すべてのバブルには勝者の分け前があります。しかし、暗号資産を築き上げようとしている方々は、陰に隠れた次のバンクマン‐フリードが控えていることも知っておくべきでしょう。そのような人たちが、自分の資産の本当の価値を漏らしたり、あなたの資産を盗んだりするのかどうか、あるいは、それがいつになるのかは誰にもわかりません。

 

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執筆者

Mark J. Higgins, CFA, CFP

(翻訳者:瀧澤 創、CFA)

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2022/11/17/the-alchemists-paradox-central-bank-sovereignty-and-the-fate-of-crypto/

 

注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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