638

CFA協会ブログ

No.638

2023年10月6日               

先行きは明暗混在? 銀行部門と3つの主要ドライバー

A Mixed Outlook? The Banking Sector and Its Three Key Drivers

ラディスラオ・ビダル,CFA

 

銀行の最新決算には、「記録的」、「傑出」、「倍増」といった言葉が踊る。これまでのところ、少なくとも収益面から見ると、2023年は銀行部門にとって当たり年となった。

しかし、銀行の株価はまだ過去の最高値を更新していない。世界の銀行を対象とするKBWナスダック・グローバル・バンク・インデックスは、2022年初頭に現在の利上げ局面が始まって以来、ほとんど成長しておらず、概してCOVID-19以前のピークを上回っていない。他の銀行指数もアウトパフォームしていない。S&P地方銀行指数は2016年の水準で取引されている。

銀行業は多くの影響を受ける複雑な業種である。そのため、中長期的な見通しを判断するためには、現在銀行業界で作用している3つの主要な推進力を理解する必要がある。

1. 金利上昇環境への移行

米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げ局面は過去数十年で最も動きが速く、銀行部門はその恩恵を受けてきた。金利が上昇すると、銀行の資産は負債よりも速く価格修正される傾向があり、その結果、銀行の収益の大部分を占める純利息収益が増加する。これが現在の金利局面で起きていることであり、業界の財務状況には追い風となっている。

しかし、金利上昇は諸刃の剣である。多くの銀行は、金融緩和時代に長期債券のポートフォリオを大量に積み上げたが、金利の上昇とともにその価格は急落している。満期保有目的(あるいは満期まで隠しておく目的)の会計処理によって、銀行の財務はその影響から守られてきたが、これらのポートフォリオが解消されれば、損失が顕在化し、銀行の自己資本は打撃を受けることになる。これは、W・ブレイク・マーシュとブレンダン・ラリベルテが「銀行における未実現損失の影響」で述べているように、部門全体の懸念事項である。

確かに、低金利またはマイナス金利の環境から、プラス金利だが逆イールドカーブの環境へと切り替わるのは非常に早かった。これは銀行にとって問題を招いてしまうのだろうか?金融理論によれば、銀行は期間変換を行う-短期の借り入れを行い、長期貸し出しを行う-従って、先の問いに対する回答としては「YES」かも知れない。とは言え、実際には、銀行はカーブ上の異なるポイントで借入と貸出を行っており、ローンや債券の平均満期は5年を下回る傾向にある。さらに、資産と負債はうまくマッチングしているため、逆イールド・カーブにおいても銀行は収益を上げることができる。事実、イールドカーブの変化に銀行はどう対応してきたか?」において、トーマス・キングとジョナサン・ユーは、イールド・カーブがフラットであれば、銀行が実際に純利鞘を増加させるという証拠を発見している。

2. ネオバンクとの競争は緩和

ネオバンクとフィンテックは、低金利と技術的破壊の申し子である。低金利によって主力商品のスプレッドが歴史的な低水準となる中、銀行は代替的収入源を探さざるを得なくなった。つまり、非金利収入を得るためにクレジットカードや送金サービスなどの手数料を高く設定するようになったのである。これに古い技術の蓄積や安価な資金で資金調達できた新興企業が加わり、伝統的な銀行にとって激しい競争が生まれた。フィンテックに冬の時代が到来するまでは。

ところが、安易な資金調達が過去のものとなり、ほとんどのネオバンクは生き残るのが難しくなるだろう。大半はまだ黒字化を達成しておらず、そのギャップを埋めるための安価な資金調達はもうできないだろう。さらに、銀行が従来の収益源である金利収入への依存を復活させるにつれ、サービス手数料の引き上げ圧力は低下するだろう。顧客体験やデジタル・ディスラプションがもてはやされているが、ネオバンクの手数料が従来の銀行とほぼ同水準になれば、顧客を維持するのは難しくなるだろう。金利収入が経済的なクッションとなる今、手数料を引き下げて攻勢に転じようとする銀行も出てくるかもしれない。

3. 市場倍率

では、銀行にとっての市場変数はどう動いているのだろうか?あまり良くない。銀行部門は他業界と比較してまだ割安である。株価純資産倍率は銀行の標準的な倍率だが、多くの銀行はまだマジック・バリューである1を下回っている。理由はいくつかある。業績が改善しているとはいえ、雲行きは怪しい。イタリアのような直接税による政府の一方的な措置、規制強化、追加資本要件など、あらゆる可能性が考えられる。銀行のコンプライアンス部門はますます権勢を増し、収益性の足かせとなっている。

さらなる逆風は、債券ポートフォリオの含み損である。どの程度の規模なのだろうか?流動性イベントを引き起こすほどの規模なのか?私たちには分からないが、この部門にさらなるリスクをもたらしているのはたしかであろう。

新たな環境への対応-金融引き締めと景気悪化による信用成長の鈍化-はもうひとつの課題である。ドイツとオランダはすでにテクニカル・リセッションに陥っており、米国が高金利環境でリセッションを回避できるかどうかは不透明だ。直近のGDPは堅調さを示しており、労働市場も底堅いため、米国の銀行の株価純資産倍率は、より控えめな欧州の銀行よりも高い。しかし、米国でもクレジットカードや自動車ローンの延滞率が上昇に転じており、住宅市場の先行きは金利が上昇すればするほど不透明になっている。

今後の展望

銀行部門は、過去10年間の低金利やマイナス金利の時代よりも良い状態にある。フィンテックの冬は競争圧力を緩和し、一部の銀行にはネオバンクを買収し、その技術の蓄積を取り入れる機会を与えるだろう。しかし、銀行の債券ポートフォリオに隠れた損失、銀行部門に過剰な課税と過剰な規制を課す政治的誘惑、金利上昇が経済に与えるかもしれないダメージは、さもなければ強気とされる見通しに打撃を与える可能性がある。

したがって、今後数四半期は、大きな課題とチャンスの両方が待ち受けているはずだ。

 

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執筆者

Ladislao Vidal, CFA

(翻訳者:大濱 匠一、CFA

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2023/10/02/a-mixed-outlook-the-banking-sector-and-its-three-key-drivers/

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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