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CFA協会ブログ

         

No.665

2024年4月22日               

株式インカム投資が再び注目される

Equity Income Investing Redux

ブライアン・F・ロマックス(Brian F. Lomax)、CFA、CAIA

 

 

株式インカム投資家にとって、過去12ヶ月間は厳しい状況にありました。S&P500指数における高配当銘柄の上位20%は、今年3月までの12ヶ月間で13.5%のリターンを上げています。これと比較すると、S&P500指数全体のリターンは29.9%でした。

 

株式インカム投資家に対する私のメッセージは、「持ちこたえてください」というものです。高利回り銘柄の来年にかけてのパフォーマンスは向上する可能性が高いです。過去の歴史、固有の認知バイアス、平均回帰性、そして現在の市場背景が、パフォーマンスの回復を示唆しています。

 

1: 配当利回り第1五分位銘柄群のパフォーマンス推移

2024331日現在。注記:1QDYまたは配当利回り第1五分位(訳注:最も予想配当利回りの高い銘柄群)

出所:S&P、ブルームバーグ、ウェルス・エンハンスメント・グループ

 

長期的に見ると、高利回り銘柄を購入する戦略は健全なものと言えます。過去30年もの間、S&P500における配当支払銘柄群の第1五分位(20%、または100株)がアウトパフォームしています。19941231日から2024331日まで、第1五分位の銘柄の年間リターンは11.9%でした。同期間におけるS&P500の年間リターンは10.4%でした。すなわち、高利回り銘柄には1.5%のプレミアムがあったことになります。

 

1五分位の銘柄群は、S&P500指数全体よりもボラティリティが高い一方で、この銘柄群は指数全体と同程度のシャープレシオであるとともに、設計上、配当利回りは指数全体に比べてはるかに高くなります。

 

株式インカム戦略は、低PBR銘柄を優先する傾向があるため、しばしばバリュー戦略に分類されます。また、高配当銘柄群のパフォーマンスは1994年から2024年にかけてラッセル1000バリュー指数を上回りました。

 

この戦略はワンファクターモデルを前提としているため、高利回り銘柄群のボラティリティが高くなるのは当然のことです。減配リスクに陥る業績不振企業を避けるべく、配当成長に関する指標を追加することは有益です。ただし、この稿では利回りだけを重点的に取り上げていきます。

 

2:配当利回り第1五分位のパフォーマンス(均等加重)

セクター中立戦略のパフォーマンスは、過去20年間にわたってS&P500指数やラッセル1000バリュー指数を上回りましたが、その程度は小さいものでした。当然のことながら、あるセクターは、この戦略内で他のセクターよりも優れたパフォーマンスを発揮することもありますが、それは当該セクター内の高利回り銘柄群のパフォーマンスが一部寄与しているのです。例えば、資本財・サービスセクターと金融セクターはセクター中立戦略内で良好なパフォーマンスを示しています。それに対して、一般消費財・サービスセクターとテクノロジーセクターのパフォーマンスはそこまでではありません。

 

なぜ高利回り銘柄がアウトパフォームしたのか?

高利回り銘柄群が歴史的にアウトパフォームしている理由については、いくつかの可能性を挙げることができます。まず、行動経済学者は、収入源を探し求める多くの投資家が、保有株を売却して得られるお手製の株式配当よりも、定期的に支払われる配当を好むことを示しています。

 

第二に、ベンジャミン・グレアムは、配当金を支払うことで企業経営者が規律を保ち、資本を賢明に配分しながら魅力的なリターンを生み出すことができると指摘しました。つまり、経営のエージェンシーコストを低下させることになります。

 

第三に、普通配当はキャピタルゲインよりも税率が高いため、理論的には株式保有者に報いるために、より高いリターンをもたらすはずです。

 

最後に私たちは、株式のわくわくするような成長ストーリーに焦点を当て、利益やキャッシュフローを通じて支払われる冴えない配当にはほとんど注意を払っていない多くの投資家は、ナローフレーミングに陥っている可能性が高いと考えています。

 

具体的に言えば、目標株価は通常、利益にマルチプル(倍率)を適用して算定されます。これらの目標株価は、企業価値評価法と同等に重要な要素である資本利益率をほんの少し考慮にいれて、企業価値の成長性を加味しているものです。当然のことながら、包括的な要素を考慮に入れる割引キャッシュフローモデルまたは配当割引モデルによる評価がもっとも適切な評価方法です。

 

高配当銘柄群の見通しは良好です。平均回帰のフレームワークを適用するだけで上値余地を示すことができます。過去30年にわたり、S&P500の第1五分位配当銘柄群について、1年後のフォワード・リターンと前年リターンの相関係数は-0.3でした。

 

機械的な平均回帰モデルの適用

2023年のリターンが6.9%30年間の平均リターンが11.9%30年間の相関係数が-0.3であることがわかっています。そのため、単純にモデルを当てはめれば、2024年のリターンは13.5% [= -0.3✕(6.9%-11.9%) + 11.9%] と予測できます。このリターンは平均値に近い値です。S&P500についても同様の計算を行うと、2024年のリターンは 10.0%になると予想できます。

 

この機械的な平均回帰モデルは、高利回り銘柄群が今年アウトパフォームすることを示しています。ただし、どの平均に戻るかを検討することが非常に重要なのです。2つの重要な基本指標は、総資産利益率 (ROA)と利益の成長性です。過去30年間、S&P500の第1五分位配当銘柄群の平均ROA4.4%1年後の予想一株当たり利益(EPS)の成長率は8.1%でした。

 

現在、この銘柄群のROA3.6%であり、1年前の2.5%を底に、今後1年間のEPS成長率は11.9%になると予想されています。ROAが平均をわずかに下回り、予想EPS成長率が平均を上回っているため、基本的なファンダメンタルは現在正常に近づいています。これは30年間の平均リターン11.9%が回帰すべき妥当な基準であることを示しています。

 

配当銘柄群の見通しを調整するためにさらに一歩進んで、いくつかの変数に対するリターンのモデルを作成することができます。S&P500の第1五分位配当銘柄群の1年後のリターンをより高い精度で予測するための2つの要素は、配当利回りと前年比CPI(消費者物価指数)です。前者は評価の基準であり、後者は金利の大まかな代理指標です。どちらの指標も、1年後の配当利回りと相関しています。

 

現在、第1五分位配当銘柄群の配当利回りは過去20年間の平均水準にあります。一方、前年比CPIは平均を上回っていますが、低下しています(図2を参照)。前年比CPIが来年も低下を続けるというコンセンサス予想が正しければ、高配当銘柄群が恩恵を受けることになります。

 

3:配当利回り、CPIおよび12ヶ月リターン

 

2024331日現在。注記:1QDYまたは配当利回り第1五分位

出所:S&P、ブルームバーグ、ウェルス・エンハンスメント・グループ

 

株式インカム投資家には厳しい状況が続きましたが、高配当銘柄群の過去のパフォーマンスを考慮すれば、それは一時的なものと言えます。私は、株式インカムを求める投資家へのメッセージ、「持ちこたえてください」を繰り返したいと思います。歴史、固有の認知バイアス、平均回帰性、そして現在の市場背景がパフォーマンスの回復を示唆しています。

 

 

 

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(翻訳者:河野俊明、CFACAIACPA

 

和文オリジナル記事はこちら

https://blogs.CFAinstitute.org/investor/2024/04/22/equity-income-investing-redux/

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資勧誘を意図するものではありません。

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