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CFA協会ブログ

         

No.669

2024年5月31日               

サステナビリティ報告書:保証(アシュアランス)実務を説明する
Sustainability Reporting: Navigating Assurance Practices 

ジェイコブ・リードナーDr.Jacob J. Leidner,CFA

ローレン・M・カニンガム(Lauren M. Cunningham),CPA

 

サステナビリティ指標と開示は、世界的に大きな注目を集めています。しかし、保証実務はその作業量に差があり、投資家は 「保証 」という言葉に誤った安心感を抱いている可能性があります。

サステナビリティ報告書を自発的に開示するという性質により、断片的な実務慣行とグリーンウォッシュの懸念が拡がっており、欧州連合(EUサステナビリティ報告指令(CSRD米国証券取引委員会(SEC)の登録者に対する気候変動関連開示規則等の最近の規制措置の制定が促されています。

環境・社会・ガバナンス(ESG)を考慮する動きの活発化を踏まえ、投資家やその他のステークホルダーは、意思決定のためにサステナビリティ情報をますます重視するようになっています。当然ながら、規制上の要件がない場合でも、外部保証に対する需要は高まっています。例えば、監査品質センターは、2021年にはS&P500社のうち320社がサステナビリティ情報の一部について自主的に保証サービスを購入している、と指摘しています。

しかし、これらの保証実務は提供される水準がまちまちです。一般には、「限定的(limited)」と 「合理的(reasonable)」の2つの保証水準があります。では、この2つの保証には何が含まれ、何が異なるのでしょうか。

 

サステナビリティ報告書の保証:どこまでが対象か?

サステナビリティ報告書は、環境への影響から従業員多様性、ガバナンスの監視まで、幅広い内容を対象としています。多くの場合、サステナビリティ報告書は、数値や図表の形でトレンドや重要なポイントを伝えています。

特筆すべきは、サステナビリティ保証業務は、サステナビリティ報告書で開示される全ての情報を自動的に対象とするわけではない点です。サステナビリティ報告書の中で何が保証されているかを理解するには、サステナビリティ保証報告書を参照する必要があります。サステナビリティ保証報告書は、サステナビリティ報告書に含まれている場合もあれば、参照リンク(企業のウェブサイト等)を通じて入手できる場合もあります。

サステナビリティ保証報告書は、何が保証の対象であるかを明示しているはずです。例えば、Siemens Healthineers AG2023年版サステナビリティ報告書の保証報告書には、次のように記載されています;「当社は、Siemens Healthineers AGのサステナビリティ報告書の[チェックマーク]が付された開示内容(以下、「開示」)について、限定保証業務を実施しました。

しかし、コカ・コーラの2022年版「事業・サステナビリティ報告書」の保証報告書には、保証の対象となった指標を列挙した別表があります。

保証報告書はサステナビリティ情報を評価する基準も開示しなければいけません。Siemens Healthineers AGの場合は、グローバル・リポーティング・イニシアチブ基準(Global Reporting Initiative standards)です。コカ・コーラの場合、基準は別表にも記載されており、企業独自のマニュアルも含まれています。特にコカ・コーラの例のような場合、投資家は別表を参照し選択された基準が会社固有の事業運営から見て妥当かどうかを判断することが推奨されます。

特定の規制要件がない場合、企業は限定保証サービスまたは合理的保証サービスのいずれかを選択することができます。限定保証と合理的保証では、報告情報の正確性に対する信頼度が異なります。

合理的保証とは?

合理的保証とは、多くの投資家が会計監査で馴染みのあるものです。これは最高水準の保証を提供します。ゼロにはならなくとも、事前に定義された許容可能な低水準まで、保証提供者はサステナビリティ情報が著しく虚偽表示されるリスクを低減します。

重要なことは、最高水準の保証サービスであるにも関わらず、合理的保証は情報の確実性を完全に提供するものではないという点です。保証提供者は、起こりうるあらゆるエラーや不正の指標の全てを検出することを保証するものではありません。

保証業務は「合理的な」保証を提供するだけのものであるため、保証手続きはテストベースで実施されます。これは保証提供者がサンプルを抽出し、分析を用いてさらなるテストが必要な特定の取引や見積りを発見することを意味します。

テストには、裏付け資料への証跡確認、第三者や法務助言提供者への情報確認、見積もりや計算における前提の合理性検証のための専門家への相談、現場でのテスト実施などが含まれます。また、開示資料を作成するために経営陣が使用した過程を深く理解することや、情報技術システムや手動のスプレッドシートで処理されたデータの正確性をテストすることも含まれます。

最後に、保証提供者は手続きによってエラーや虚偽記載が特定されたかどうかを評価します。サステナビリティ報告書の発行前に、経営陣がこれらのエラーや虚偽記載を修正する必要があるかどうかを判断するために、保証提供者はあらかじめ定義された重要性の閾値を用います。

特定されたエラー又は虚偽記載の影響の合計が事前に定義された重要性の閾値以下である場合、重要性が低いとみなされるため、保証提供者は、特定された問題について追加開示することなくサインオフ(承認)することができます。

合理的保証業務報告書の結論は、GUESS2022/2023 ESG報告書に代表されるように、肯定的な形で表明されます;「当法人の責任は、当法人の調査に基づいて、経営者の主張に対する意見を表明することにある。[…]当法人は、当法人が入手した証拠は当法人の意見に合理的根拠を提供するために十分かつ適切であると判断している。[…]当法人の意見では、2022129日及び2023128日に終了した事業年度に関する主要なESG指標及び開示に関する経営者の主張は全ての重要な点において公正に記載されている。」

使用される保証基準にもよりますが、保証提供者は、合理的保証業務について「調査(examination)」または「監査(audit)」という用語を使用することが多いようです。

限定保証とは?

限定保証業務においても、保証提供者は、サステナビリティ情報が著しく虚偽記載されるリスクを低減するための手続きを実施することを目的としています。ただし、許容される重要な虚偽記載リスクの水準は、合理的保証業務に比べて高くなります。

合理的保証業務に比べると、実施手続きはその性質上限定されます。例えば、コカ・コーラの2022年温室効果ガス(GHG)排出量保証書の中で、保証提供者は次のように述べています;「当法人が実施した手続きは、専門家としての判断に基づくものである。当法人のレビューは、主に分析的手続の適用、対象事項の責任者への質問、対象事項(すなわち、選択したGHG排出指標)の生成、集計及び報告に使用されるデータ管理システム及びプロセスの理解、及び状況に応じて必要と考えられるその他の手続の実施から構成される。」

限定保証業務報告書の結論は、否定的な形で表現されます。例えば、コカ・コーラの場合は以下の通りです;「当法人の責任は、当法人のレビューに基づき、対象事項(すなわち、選択されたGHG排出指標)について結論を表明することにある。[…]当法人は、入手したレビュー証拠が、当法人の結論に対し合理的な根拠を提供するのに十分かつ適切であると信じている。[…]当法人のレビューに基づき、当法人は、20221231日に終了した事業年度の選択された温室効果ガス排出指標の一覧が基準[すなわち、コカ・コーラ社のカーボン会計マニュアル]に準拠するために実施されるべき重要な修正を認識していない。」

使用される保証基準にもよりますが、保証提供者は限定的保証業務を「レビュー」という用語で表現することが多いようです。

 

サステナビリティ保証業務:重要なポイント

限定保証業務では、実施手続きが少なく取得証拠も少ないため、保証レベルは低くなります。コスト低減のため、多くの企業はより低い水準の保証を選択します。合理的保証業務では、より包括的な手続きが行われるため、潜在的な重要虚偽記載が発見・修正される、というより高い水準の保証が提供されます。

重要なポイントは、限定保証業務の報告書では保証提供者が重要な虚偽記載を「認識していない(not aware)」と表明しているのに対し、合理的保証業務の報告書では報告された情報が重要な意味で正しいことを「確認(affirm)」していることです。

 

 

限定保証

合理的保証

保証対象は?

特定の指標からサステナビリティ報告書全体まで様々

特定の指標からサステナビリティ報告書全体まで様々

保証提供者が評価する際の比較対象は?

世界的に認知された基準(例. 温室効果ガスプロトコル)から特定企業独自のマニュアルまで様々

世界的に認知された基準(例. 温室効果ガスプロトコル)から特定企業独自のマニュアルまで様々

一般的に用いられる可能性のある専門用語は?

Ÿ   「限定保証」

Ÿ   「レビュー」

Ÿ   「合理的保証」

Ÿ   「監査」

Ÿ   「調査」

実施される可能性のある一般的な手続きは?

Ÿ   保証対象情報の収集に用いられる過程に対する一般的な理解

Ÿ   照会

Ÿ   分析手続き

Ÿ   保証対象情報の収集に用いられる過程に対する深い理解

Ÿ   照会・問い合わせ

Ÿ   分析的手続

Ÿ   記録や裏付け情報の精査

Ÿ   実地検査

Ÿ   第三者や法務助言提供者への確認

Ÿ   得点分野の専門家の活用

結論例

否定的な言い回し:「当法人のレビューに基づけば、サステナビリティ情報に実施されるべき重要な修正を当法人は認識していない。」

肯定的な言い回し:「当法人の意見では、サステナビリティ情報は全ての重要な点において公正に記載されている。」

 

サステナビリティ保証が提供されているかどうか、また、どのような保証が提供されているかを評価するために、投資家はサステナビリティ保証報告書を入手し、(1)どのサステナビリティ情報が保証手続きの対象となっているか、(2)サステナビリティ情報がどの基準に照らし評価されているか、(3)どの程度の保証が提供されているかを知ることが推奨されます。そうすることで、投資家が受け取るサステナビリティ情報の質について理解を深めることができるのです。

 

 

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翻訳者篠原 央士、CFA

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2024/05/17/sustainability-reporting-navigating-assurance-practices/

 

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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