671

CFA協会ブログ

         

No.671

2024年6月14日               

FXバブル:シラーとソーネットのレンズを通して

FX Bubbles: Through the Lens of Shiller and Sornette

セバスチャン・ペトリック(Sebastian Petric),CFAミン・ドン(Ming Deng),PhD

 

人々の市場への見通しや群集心理といった心理的要因が株式市場のダイナミクスに大きな影響を与え、投機的バブルや急激な市場調整を引き起こす可能性があることは広く理解されています。一方、あまり理解されていないこととして、外国為替(FX)市場も同様にそのようなリスクの影響を受けやすいという事実がありますが、地政学的な出来事との関連では、おそらくよりその傾向が強いと思われます。

 

FX市場-世界中の通貨の為替レートを設定する店頭市場-は、取引量において世界最大の市場です。そのようなFX市場のバブルについて、ロバート・シラーディディエ・ソルネット(Didier Sornette)のレンズを通して見て行きたいと思います。

 

FX市場のバブルと暴落の顕著な例といえば、2000年代初頭にアイスランド・クローナで発生した事例があります。2001年にアイスランドの金融セクターの規制が緩和され、金融機関における事業拡大と外国からの投資が促進されたため、クローナは大幅に上昇しました。この金融セクターの業容拡大は、アイスランドの高金利も手伝って、群集心理が根を張るにつれ、かなりの投機的投資を惹きつけたのでした。

 

2007年初め、エコノミスト誌はビッグ・マック指数に基づき、アイスランド・クローナを最も割高な通貨にランク付けしました。結局、このバブルは2008年の世界金融危機のさなかに崩壊し、アイスランド・クローナは大幅な下落に見舞われ、アイスランド経済は劇的に崩壊しました。

 

シラーが新古典派モデルに挑戦

 

どのような資産クラスにしろ、価格バブルについて語るとき、シラーの理論から始めてソルネットのモデルに移ることがとても重要です。金融市場のダイナミクスに関するシラーの洞察は、伝統的な新古典派モデルに挑戦し、FX市場にも応用できる純粋な投機的価格暴騰に対するより深い理解を提供しています。彼の理論、特に「超過ボラティリティ仮説」は、株式市場と同様に、FX市場も金利、インフレ率、国際収支といった経済のファンダメンタルズによって裏付けられる以上のボラティリティを経験する可能性があることを示唆しています。

 

シラーが金融市場の分析に行動ファイナンスを取り入れることで強調したのは、取引や投資の意思決定において心理的要因が重要な役割を果たすということです。FX市場では、このことは、通貨価値が市場への見通し、群集行動、ニュースへの過剰反応に影響される可能性があることを示しています。こうした要因は、市場をファンダメンタル価値から遠ざけ、投機的バブルや急激な調整を引き起こす可能性があります。

 

効率的市場仮説に疑問を呈しつつ、シラーは、市場が常に新しい情報を効率的に取り込むとは限らないことを提唱しています。この理論は為替市場にも当てはまります。キャリートレードの機会からパターンが予測できるというアノマリーが示唆しているのは、FX市場が株式市場と同様に、過去の価格データによって将来の動きが予測できる瞬間を示しているということです。

 

シラーは、金融市場を理解するために、地政学、市場心理、経済イベントなどの非経済的要因を含む、より広範なアプローチを提唱しています。これらの要因は通貨価格に影響を与え、他の金融市場で見られるバブルのような大規模な投機的動きを誘発する可能性があります。

 

シラーの理論は、経済的、心理的、社会学的要因の相互作用を組み込みながら、古典的な経済分析の枠を超えた、FX市場を理解するための枠組みを提供しています。この包括的なアプローチは、純粋に合理的で効率的な市場のパラダイムに挑戦するものであり、FXのダイナミクスに対しては微妙な見方が必要である点を強調しています。このような幅広い視点は、為替の微妙な変動や、しばしば不合理になりがちな市場参加者の行動を予測し、理解する上で極めて重要です。

 

ソルネットの登場:バブルを予測するモデル

 

バブルを測定するとき、ソルネットがどうしても頭に浮かびます。この研究者は、金融危機の現象と資本市場のダイナミクス(躍動)を探求しています。彼は、バブルという重要な概念に焦点を当てながら、市場の失敗につながるパターンと行動を掘り下げています。従来の定義では、資産価格をしばしば測定が困難なファンダメンタル価値と比較することに重きを置いていますが、その定義とは異なり、ソルネットの研究でいう金融バブルとは、資産価格の持続不可能な動きの検出を特徴としています。

 

ソルネットの研究の重要なテーマは、金融危機の予測可能性です。つまり、ソルネットが主張しているのは、市場はしばしばランダムで無数の要因によって動いているように見えるが、時には暴落の兆候を知らせてくれるパターンを示すことがあるということです。そのようなパターンを特定するためにソルネットが開発した主要な手法の一つが、LPPLSthe Log-Periodic Power Law Singularityモデルです。

 

LPPLSモデルでは、金融バブルは2つの重要な要素を特定することで検知できると仮定しています: 1)バブル形成期における資産価格の伸びは指数関数的成長より速いこと、2)臨界点に近づくにつれて価格サイクルが加速すること、つまり、崩壊の前に市場のセンチメントはどれだけ上がるかということを補足していくということです。

 

このモデルをFX市場に適用することで、ソルネットは同様のパターンが通貨でも観察できることを示唆しています。FX市場は株式市場と同様、マクロ経済変数、地政学的イベント、トレーダー心理の組み合わせによって影響を受けます。LPPLSモデルは、為替レートの超指数関数的成長と対数変換された時系列サイクルを分析することで、FX市場におけるバブルを特定する上で役立つ可能性があります。このようなパターンが見つかれば、通貨価値の大幅な調整や暴落が差し迫っていることを示す早期警告サインとして使えます。

 

例えば、ある通貨が暴落する前に、その通貨が他の通貨に対してますます急速に上昇し、それに伴ってその通貨市場への投機的な取引や投資が増加するかもしれません。その結果、持続不可能なバブルが発生し、やがて崩壊して価格が急変する可能性があります。このような急激な成長と価格変動を監視し、統計ツールを使ってその頻度と大きさを分析すれば、投資家やエコノミストはこのような暴落の悪影響を予測し、軽減することができるかも知れません。

 

ソルネットの洞察は、市場行動と心理的要因の複雑なダイナミクスをどのようにモデル化し理解できるかを考察するための理論的基礎を提供し、FX投資の領域におけるリスクの予測と管理を展望する上でもユニークな視点を提供してくれます。

 

この投稿が気に入られたらEnterprising Investorのご購読をお願い致します。

執筆者

Jordan Gillissie                   

翻訳者大濱 匠一、CFA

 

英文オリジナル記事はこちら

 FX Bubbles: Through the Lens of Shiller and Sornette

 

) 当記事はCFA協会CFA Instituteのブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

また、必ずしもCFA協会または執筆者の雇用者の見方を反映しているわけではありません。