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CFA協会ブログ

         

No.672

2024年6月21日               

Private Markets’ Governance: A New Era

プライベート市場のガバナンス:新たな時代

マーク・フォーチュン

 

 世界金融危機以降のプライベート市場の急激な成長は、世界中の規制当局の注目を集めていて、一部の規制当局は早急に対応してきました。興味深いことに、米国の裁判所は、最近に証券取引委員会(SEC)が採択したプライベートファンド・アドバイザーに対する包括的で論争を招いた規則を無効としました。

しかし、問題の解決にはほど遠い状況です。実際には、プライベート投資セクターが、それほど安価でない資金である新たな時代に突入する中で、厳しい規制がないために、業界のベストプラクティスや自主規制がさらに重要になっています。

CFA協会のリサーチ・アンド・ポリシー・センター(CFA Institute Research and Policy Center)の報告書「プライベート市場:ガバナンスの課題が浮上」では、プライベート市場がどのように機能しているかを明らかにし、投資家と政策立案者の双方に提言をしています。この報告書は、CFA協会の会員を対象にしたグローバルな調査に基づいています。

その目的は、プライベート市場を支持することでも非難することでもないと、CFA協会の資本市場政策担当シニア・ディレクターで報告書の著者であるステファン・ディーン、CFAは、Enterprising Investorに語っています。

インフレ率と金利の上昇が、プライベート市場を新たな時代に導き、ガバナンスの課題の重要性が高まっているとディーンは主張しています。こうした課題には、ファンドの運用者(ジェネラルパートナー、GP)とファンドの投資家(リミテッドパートナー、LP)の関係、その他の関係、利益相反の可能性が含まれます。ディーンによれば、監視の目が厳しくなっているにもかかわらず、プライベート市場がどのように機能しているかに関する公開情報は依然として不足しており、プライベート市場の規制に関する見解がまとまらないことを表しているのかもしれません。

先の報告書は、プライベート・エクイティ、クレジット、ベンチャー・キャピタル、不動産、インフラ・ファンドなどのプライベート・ファンドに焦点を当てています。これらのファンドは、解約や償還が制限されている場合が多く、認められる場合でもその範囲が限られています。

ディーンは、投資の専門家、政策立案者、研究者にとって価値のある報告書を執筆するに至ったのは、様々な要因が重なったからだと述べています。報告書は、調査の結果とガバナンス関連の課題に関する入門書の2つの主要な構成になっています。「その目的は、調査結果を説明し、これまでに書かれてきたことに基づいて、課題点をより深く理解できるように整理し、専門家や研究者にテーマを提供することです。また、年金基金の最高投資責任者や業界団体のリーダーにも話を聞きました。何が起きているのかを知るために、様々な情報源に目を向けました。」

プライベート市場の膨張

「プライベート市場は、その規模が大きくなったために、ますます重要になっています。経済にとってより重要になり、例えば、プライベート・エクイティが一部または全てを所有している企業や、プライベート・クレジットによって資金調達をしている企業には、多くの雇用があります。そのために、経済の大きな部分を占めています」とディーンは説明しています。「そして、安価な資金の時代が終わり、疑問が残ります:結果として、金融の安定性へのリスクがあるのでしょうか。これもCFA協会が興味を持った理由です。」

プライベート市場は公開市場ではないために、公開市場に比べて入手できる情報が限られていることは驚くようなことではありません、とディーンは言います。「相反する見方があることは理解できますが、皮肉なことかもしれません。米国、英国、EU、中国では規制当局の関心が高まっており、何が起きているのかを詳しく調べていますが、この市場に関する情報はあまりありません。」

ディーンは、規制当局がプライベート市場への個人投資家のアクセスの増加を認めることについて、もしそうするとしても慎重に進めることを推奨しています。個人投資家を締め出すのは不公平に見られるかもしれません、と述べています。一方で、公開市場における投資家保護の確固たる枠組みがプライベート市場には欠けている、と指摘しています。

米国の裁判所が規制当局を抑制

SECのプライベートファンド・アドバイザー規則は、65日に米国第5巡回区控訴裁判所によって破棄されました。同裁判所の判決はこちらから閲覧できます。また、先の報告書のAppendix C「係争法廷書面:SECのプライベートファンド・アドバイザー規則」には、法廷に提出された反対意見の概要が掲載されています。

「裁判所は規則のパッケージ全体を破棄しましたが、それはSECには規則を採択する権限がないという狭い根拠に基づくものです。したがって、SECが議会からの規則を採択する権限を持っていたかどうかにかかわらず、その規則が良いものであったかどうかという疑問が残ります」とディーンは主張しています。

SECの規則が破棄された今、参加者による私的秩序がどのように機能するかを実証することが、業界に課せられた責務です。「適切な開示や利益相反の可能性の解決など、ファンドのスポンサーやファンドの運用会社だけでなく、多くの場合、消防士、教師、警察官などの普通の人々である固有の受益者を持つファンドの投資家の利益になるような、私的秩序の取り決めを作ることができるのでしょうか。」

CFA協会は何か支援ができるのでしょうか。ディーンは、協会が突然すべての情報ギャップを埋められるという幻想を抱いていないと言います。「それはできませんが、少なくとも何らかの情報を埋め始める貢献はできます。それが個人的なモチベーションになりましたし、やろうと興味を持ったことです。」

CFA協会のグローバル会員調査

CFA協会は、202310月にグローバルな調査を実施し、プライベート市場に関する投資専門家の見解と実務に関する情報を収集しました。この調査は、LPGPとしての経験を持つ会員を含めた全ての会員を対象としています。市場の見通しではなく、根本的なガバナンスの課題に焦点を当てています。

ディーンによれば、「協会から一連の質問をして、様々な選択肢から回答をしでもらいました。基本的には、現状は素晴らしいか、ひどいか、またはその中間かというものです。ほとんどの調査回答者は、プライベート市場がどのように機能しているかについての見解と、規制や政策介入がどうあるべきかについての見解の双方について、中程度で穏健な回答を選択しました。」

LPGPを含めてほとんどの調査回答者は、全体として規制の強化を支持しているものの、注意点として、規制は限定的であるべきとしています。「回答者はより多くの情報開示を望んでいて、開示を義務付ける規制を支持しています。しかし、特定の行為を禁止すべきだとまでは言っていません。」

ほとんどの回答者は、プライベート市場の課題を評価する上での穏健な見解とさらなる規制の必要性を唱えています。やや過半数(51%)が、プライベート市場の実務は改善できるものの、課題は深刻なものではないと回答しています。同様に過半数(52%)が、新たな規制を支持していますが、その程度は限定的なものでよいとしています。回答者は概して、完全な禁止ではなく、開示の義務化(または開示と同意)を支持しています。具体的な規制に目を向けると、大多数がGPの年次監査(79%)、四半期報告書(70%)、アドバイザー主導の流通取引の公平性または評価の意見(61%)を提供することを支持しています。

 

執筆者

マーク・フォーチュン(Mark Fortune

(翻訳者:今井 義行、CFA

 

英文オリジナル記事はこちら

Private Markets’ Governance: A New Era | CFA Institute Enterprising Investor

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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