673

CFA協会ブログ

         

No.673

2024年6月28日               

ヘッジファンド:長期投資家の多くにとっては悪い選択か

Hedge Funds: A Poor Choice for Most Long-Term Investors?

リチャード・M・エニス、CFA

 

ヘッジファンドは機関投資家のポートフォリオ運用に欠かせない存在となりました。ヘッジファンドは公的年金では資産の約7%、大規模エンダウメント基金では資産の18%を占めています。しかし、ほとんどの機関投資家にとってヘッジファンドが有益と言えるのでしょうか?

 

その疑問に答えるため、手数料控除後パフォーマンスと機関投資家の長期投資目標との適合性を検討しました。その結果、世界金融危機(GFC)以降、ヘッジファンドのアルファはマイナスであり、ベータも低いことがわかりました。さらに、ヘッジファンドに分散投資することで、多くの機関投資家は知らず知らずのうちに株式保有比率を減らしていたのです。

 

つまり、私の答えは、ヘッジファンドはほとんどの機関投資家にとって有益ではないと否定する一方で、少額の配分なら正当化されるような絞り込んだアプローチを提案します。また、ヘッジファンド投資のメリットについて学者間で議論を呼んでいる新しい研究も紹介します。

 

手数料控除後パフォーマンス

ヘッジファンド・マネージャーは通常、運用資産(AUM) の2%と利益の20%を手数料として徴収します。ベン・デイビッドら(2023)によれば、ヘッジファンドの "2-and-20 "の手数料体系は、実際には"2-and-20 "を超すものになります。Ben-Davidとその共著者らは、実効インセンティブ率は50%であり、これは名目上の20%の2.5倍であると推定しています。

 

著者らは、「これは、インセンティブ・フィーの元となった利益の約60%が最終的に損失で相殺されてしまうために起こる」[i]と言います。1995年から2016年までのヘッジファンド業界のAUMに対する年平均コストは、彼らの計算では3.44%です。これは、基本的に公に取引されている証券のポートフォリオであるファンドにとって重い負担になります。それらのファンドは一体どのような結果を実現してきたでしょうか?

 

ヘッジファンドはGFCまで花形選手でしたが、その後状況は一変しました。クリフ・アスネスは、ヘッジファンドがいかにガス欠に陥ったかを示しています。その理由は、ヘッジファンドの資産が2000年から2007年の間に10倍に増加[ii]したためかもしれません。2008年に施行されたパートナーシップ資産の評価に関する会計ルールの変更が原因かもしれません[iii]。あるいは、2010年のドッド・フランク法改革による規制監督の強化が「......うまみのあったいくつかのヘッジファンド取引を冷え込ませた......[iv]可能性もあります。

 

いずれにせよ、ヘッジファンドへの分散投資は、現代(つまりGFC後)においてアンダーパフォームしているようです。2023630日までの15年間で、HFRファンド加重コンポジット指数の年率リターンは4.0%でした。これに対し、同等の市場エクスポージャーとリスクを持つ52%株式と48%国債からなるブレンド市場指数のリターンは4.5%です[v]。この指標によれば、ヘッジファンドコンポジットは、年率 0.5%アンダーパフォームしました[vi]

 

しかし、ヘッジファンドのパフォーマンスに関する最近の学術文献はまちまちなものとなっています。サリバン (2021)は、ヘッジファンドのアルファはGFC 後に低下し始めたと報告しています。ボーレンら(2021)も同様の結論に達しています。他方、バースら(2023)の最近の論文では、ヘッジファンドのなかでも一部の新興ファンド(ベンダー・データベースに含まれていないもの)が、データベースに含まれているものよりも優れたリターンを出していることが示されています。

 

その理由は完全には明らかになっていません。とはいえ、これまで見過ごされてきたこうしたファンドの存在が明らかになったことは、さらなる研究が必要であることを示唆しており、ヘッジファンド投資のメリットについて学者たちの間で議論する余地は残されています。

 

ヘッジファンドがアルファに与える影響

我々の研究で注目したのは、ヘッジファンドなどのオルタナティブ資産クラスが、調査対象の機関投資家ポートフォリオが獲得したアルファにどのような影響を与えたかということです。このアプローチは具体的かつ実践的なものです。まず、年金基金の大規模なサンプルのアルファを計算します。続いて、ヘッジファンドというアセットクラスへの配分比率の小さな変化に対する、基金間のアルファ生成の感応度を決定します。ここでは、各基金のヘッジファンドへの配分がリターンに与える影響と、それらのヘッジファンドが機関投資家の収益に与えるパフォーマンスの影響を観察します。この手順には、漠然さや、仮説的なものはありません。

 

この機関投資家ファンドのデータセットは、54の米国公的年金基金で構成されています。リターン・ベースのスタイル分析を用いて、基金それぞれのベンチマークを作成し、2021 6 30 日までの 13 年間のアルファを計算しました[vii]。アルファは年率-3.9%から+0.8%までの5%ポイント弱の範囲でした。

 

各年金基金については,ボストン・カレッジの退職研究センターの公的年金データをリソースとして,調査期間中のヘッジファンドへの平均配分比率を入手しました。データベースの中にはヘッジファンドへの配分が 0%の年金基金もありましたが,平均配分は7.3%であり,最大平均配分は 24.4%でした。

 

1は、アルファを基金それぞれのヘッジファンドへの配分比率に回帰した結果を示しています。係数-0.0759 t値は-3.3 であり、統計的に有意な関係を示しています。係数から解釈できることは、ヘッジファンドへの配分比率が1%ポイント上昇するごとに、年金基金全体のアルファは7.6bps 低下するということです。

 

サンプルの全 54 基金の調査期間中のヘッジファンドへの平均配分は7.3%です。これは、公的年金基金全体のファンドレベルでは、年間55bpsのアルファ低下(7.3×-7.6bps)に相当します。公的年金基金全体がそうであるように、AUM10%に満たない資産クラスにしては大きな打撃です。

 

図1. 年金基金のアルファとヘッジファンド配分比率との関係(2009年から2021年まで)


 

ここまでをまとめましょう。ヘッジファンドは、公に取引されている証券の分散ポートフォリオです。投資家にとってヘッジファンドのコストは、最近の試算ではAUMに対して年率3.4%であり、これは大きな負担です。HFRのデータを用いた我々の推定では、ヘッジファンドはGFC以降、市場エクスポージャーとリスクを一致させたベンチマークを年率0.5%アンダーパフォームしました。

 

ヘッジファンドのパフォーマンスに関する学術的な文献が示すものはまちまちです。ヘッジファンド投資が公的年金のパフォーマンスに与えた影響についての我々の調査では、GFC以降、平均約7%の資産配分によって、基金全体で年率約 50bpsのアルファ損失負担となりました。全体としてみれば、これらの結果は、ヘッジファンドへの投資―少なくとも分散された形での-が付加価値の源泉になるという見識に疑問を投げかけるものです。

 

ヘッジファンドは株式の代用品ではない

機関投資家は、株式エクスポージャーを長期にわたって着実に増やしてきました。公的年金基金の株式エクスポージャーは70%超であり、1980年の40%から50%から上昇しました。大規模なエンダウメント基金の実効株式エクスポージャーは、近年80%から85%まで上昇しています。機関投資家は、株式が長期的な成長の鍵であるということに揺るがない自信を示しています。最近では、これらの投資家は付加価値の可能性を求めてヘッジファンドに魅力を感じています。しかし、アクティブ投資としての可能性は別として、ヘッジファンドは本当にそうした投資家に適しているのでしょうか?

 

アスネス (2018)は、ヘッジファンドについて一般的に誤解されていることの逸話的証拠を提示しています。ヘッジファンドのパフォーマンスがS&P500のような株価指数と比較されることで、人々はヘッジファンドを普通株の代用品と考える傾向があると彼は論じています。しかし、彼の報告によれば、ヘッジファンドは一般的に持分のヘッジを行っており、株式エクスポージャーは50%弱にすぎません。つまり、一般的にヘッジファンドのベータは1.0よりずっと低いということです。ベータを限りなくゼロに近づけることを目指しているヘッジファンドもあります。

 

このため、ヘッジファンドを株式の代用とすると、投資家は知らず知らずのうちに株式エクスポージャーを減らしている可能性があるのです。図2 は,前述の54 の公的年金基金サンプルについて,実質的な株式エクスポージャーとヘッジファンドへの配分比率の関係を示したものです。y切片は株式72.9%で、統計的に有意です。株式への配分が1.6%ポイント減ると、ヘッジファンドへの配分が7.3%ポイント増加となり、その座標点が年金基金の平均にあたります。(係数の t値は-2.2 であり、これも統計的有意性を示しています)。

 

言い換えれば、ヘッジファンドに多額の資金を配分している公的年金基金は、事実上の株式配分が低い傾向にあり、つまり、株式市場へのエクスポージャーをおそらくは意図せずに抑えている結果となっています。

  

2. 株式エクスポージャーとヘッジファンドへの配分の関係


 

ところで、ヘッジファンドにアクティブ・リターンを付加する卓越した可能性があるなら、ヘッジファンドへの配分は、基金ポートフォリオの他の部分で株式エクスポージャーを増やすことで許容できるでしょう[viii]。しかし、ヘッジファンドがアルファへの寄与を欠いているという確証を我々は見出しています。従って、株式ベータの低いヘッジファンドは、ほとんどの長期投資家にとって特に適しているとは言えないように思われます。

 

資産クラスの誤謬を避ける

我々は、上位のヘッジファンド・マネージャーの中には、卓越した才能が稀かもしれませんが存在はすると信じています。卓越したマネージャーを見極め、その手腕から利益を得ることはまた別の問題です。しかし、並外れて巧みなマネージャーの存在を否定しません。機関投資家にとって大きな問題は、あらゆる種類のアクティブ投資を過剰に分散する傾向があり、ヘッジファンドも例外ではないことです。ある機関投資家が、少なくとも数人の優れたマネージャーを特定できると考えているとしましょう。どこから始めるのがよいでしょうか?

 

第一に、投資家はこれに取り組む際に、資産クラスではなくマネージャーに焦点を当てるべきだということです。"資産のX%をヘッジファンドに組み入れます "と世間に宣言しても何も得られません。これがヘッジファンド投資の資産クラスの誤謬です。いくつでも勝ち組のヘッジファンドを選ぶことが当たり前のように聞こえますが、そうではないのです。我々の判断では、この資産クラスが提供するものはほとんど、あるいはまったくありません。ヘッジファンドへの投資配分は、特定のファンドの投資機会の認識に応じて増減すべきです。

 

第二に、最も優れたマネージャーの卓越した才能を抑圧しないよう、ヘッジファンドの総数を34本程度に制限することを推奨します。図3は、複数のマネージャーを利用することによるアクティブ・リスクの分散を示しています[ix]。1社ではなく4社のマネージャーを使うことで、アクティブ・リスクは半減します。これ以上のマネージャー分散によるリスク削減効果は逓減します。しかし、最良マネージャーの選択による効果は即座に希薄化されてしてしまうリスクを伴います。

 

図3. アクティブ・リスクの分散


ヘッジファンドに関心を持つ機関投資家は、難問に直面しています。分散投資本能にしたがって資産クラスの誤謬に目をつぶるか、あるいは、ごく少数の運用会社を選んでそれらが生み出す可能性のある影響を受け入れるかということです。それとも、ヘッジファンドを完全に避けるべきなのでしょうか?

 

長年にわたり、ヘッジファンド投資はほとんどの機関投資家のアルファを低下させただけでなく、多くの場合、アルファをマイナスに追いやってきました。また、長期投資家の望む株式エクスポージャーを奪ってきました。ヘッジファンドに分散して配分することに戦略的なメリットはありません。しかし、機関投資家が少数の真に優れたヘッジファンドにアクセスでき、ヘッジファンドのエクスポージャーを過度に分散させる誘惑に抵抗できるのであれば、少額の配分を正当化しうるかもしれません。

 

謝辞

アンティ・イルマネンの有益なコメントに感謝します。

 

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(翻訳者:清水英佑、CFA

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2024/06/26/hedge-funds-a-poor-choice-for-most-long-term-investors/

 

 

当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

また、必ずしもCFA協会または執筆者の雇用者の見方を反映しているわけではありません。



[i] Ben-David et al.(2023)p. 1.

[ii] Sullivan (2021), p. 61を参照。

[iii] 2009年以前は、プライベート・アセットの評価に市場価格の原則を取り入れる義務はなかった。従って、プライベート・アセットの評価においては、取得原価または帳簿価額が一般的であった。しかし、2008年の会計基準編纂書(ASC820の登場により、プライベート・アセット評価にも市場原則を用いることが求められるようになった。Crain and Law (2018)は、「...公正価値会計の使用後、ファンド・マネジャーが評価を下方修正する頻度が高くなり、すべての四半期にわたって評価の上方修正の規模が低下した」ことを見出した。ASC820の登場以降、「評価バイアス」が大幅に減少していることも見出している。

[iv] Bollen, et al. (2021)を参照。

[v] ベンチマークは、リターンに基づくスタイル分析(Sharpe, 1988および1992を参照)を用いて導出されたもので、Russell 3000株価指数24%、MSCI ACWI ex-US株価指数28%(ヘッジありシリーズとヘッジなしシリーズの組み合わせ)、および財務省短期証券48%で構成されている。

[vi] Anti Ilmanenは、ベンチマークの株式エクスポージャーを少なくすることで、これらとは異なる結果を出した者もいると指摘している(例えば、Sullivan 2021を参照)。このことは、この種の研究が複雑で不正確であることを強調している。結果は、ヘッジファンド・リターンの情報源、期間、月次または年次リターンの使用、ベンチマークの構築に制約付き重回帰(二次計画法)または CAPM のどちらを使用するか、独立変数として使用する市場インデックスなど、多くの要因に左右される。

[vii] 2022年および2023年のリターンは、大きなリターン平準化を反映しているため除外した。米国株式市場は2022年第4四半期に急落した。2022年末の機関投資家ファンドのリターンの評価に使用された純資産価値(NAV)は、ポートフォリオの評価に1四半期以上遅れたNAVを使用する慣行があるため、株式価値のこの下落を反映していなかった。翌年、株式市場は急騰し、純資産価値は前年の下落を反映し始めたため、プライベート・アセットの評価は再び遅れた。全体的な影響としては、2022年の報告における損失が大幅に減少し、2023年の利益が抑制された。こうした影響が評価プロセスに反映されるまでには、少なくとも2024年まで、場合によっては2025年までかかるだろう。

[viii] もちろん、投資家はポリシー(資産クラス)配分とは別に、デリバティブを使って株式エクスポージャーをコントロールすることもできるが、これにはより大きな複雑さとコストが伴う。

[ix] 3は説明のための理論的構成である。各アクティブ運用口座は等金額で、それぞれのアクティブ・リスクは5%であり、運用会社間のアクティブ・リスクは無相関であると仮定している。